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2008年の『読んだ』

今年はお友達からいただいた上橋菜穂子さんの「守り人シリーズ」で幕開けしました。「十二国記」とあわせてお勧めの和製ファンタジーです。また年越しで読んだHis Dark Materialsシリーズも良かったです。触発されてキリスト教関係の本も読んでみたいな、などと思いました。パオリニのドラゴンライダー3巻も今年発売ですね。

感想を書いたついでに内容が気に入った内容であったかどうか、また、英語の本の場合は、英語の難易度を併記してあります。内容評価は、◎=「たいへんおもしろかった」、○=「なかなかおもしろかった」、●=「まあまあおもしろかった」、△=「もうちょっとおもしろくてもよかったかもしれない」、×=「私には、この本のおもしろさはわからなかった」といった5段階評価。英語の難易度は、独断と偏見で、A=「カンタン」、B=「普通」、C=「手強い」の3段階にしてあります。ただし、これは、表現(文法)の難易度であり、単語に日常会話ではあまり使われない単語が多く出てくる場合は、+がついています。これは、表現がカンタンでも、特殊な分野(SFなど)では、あまり使われない単語や造語などが多くでてくるためです。

読んだ日題名著者出版社・年内容英語
12月10日大地の子 山崎豊子著 1994 
11月29日The Amulet of Samarkand Jonathan Stroud 著 Corgi 2003B+ 
11月20日Breath Tim Winton 著 Hamish Hamilton 2008
11月14日Brisingr Christopher Paolini 著 Doubleday 2008A+ 
9月17日Spook's Battle Joseph Delaney 著 The Bodley Head 2007A+ 
8月25日すっぴん魂 カッパ巻 室井滋著 文藝春秋 1998 
8月24日失楽園 (下) ミルトンジョン著 平井正穂訳 岩波文庫 1667A+ 
8月23日The Day of the Triffids John Wyndham 著 Penguin Books 1951
7月28日Spook's Secret Joseph Delaney 著 The Bodley Head 2006A+ 
7月22日チチンプイプイ 宮部みゆき 室井滋共著 文春文庫 2002 
7月20日怒涛の厄年 三谷幸喜著 朝日新聞社 2003 
6月29日五体不満足 乙武洋匡著 講談社 1998 
6月28日On Chesil Beach Ian McEwan 著 Vintage 2007
6月21日The Last Battle C.S. Lewis 著 Collins 195?A+ 
5月27日The Silver Chair C.S. Lewis 著 Collins 1953A+ 
4月27日The Voyage of The Dawn Treader C.S. Lewis 著 Collins 1952A+ 
4月20日失楽園(上) ミルトンジョン著 平井正穂訳 岩波文庫 1981 
3月9日夢の守り人 上橋菜穂子著 新潮文庫 2000 
2月9日闇の守り人 上橋菜穂子著 新潮文庫 1999 
3月14日The Amber Spyglass Philip Pullman 著 Scholastic 2000B+ 
1月27日佐賀のがばいばあちゃん 島田洋七著 徳間文庫 2004 
1月21日精霊の守り人 上橋菜穂子著 新潮文庫 1996 

「大地の子」 山崎豊子著
12月10日 読了

あらすじ: 第二次世界大戦の終わりに満州に取り残され、孤児となってしまった松本勝男は、農村の中国人夫婦に引き取られますが、過酷な労働に耐えかね逃げ出します。その後引き取られた優しい養父母の元立派に成長するのですが、日本人孤児であることから文化革命のもとに差別され、強制労働所送りとなります。文化革命の後で日中交流が再開し、日中共同の鉄鋼事業に関わることとなった松本勝男改めイー・ルイシンは、中国人として日本側を相手に様々な要求を突きつけます。それは中国人として何とか認めてもらいたいという長年の彼の望みからも来ているのでした。

山崎豊子が多くの資料や実際の中国人孤児を取材して書き上げた歴史長編小説ですが、小説中に出てくる様々な出来事はどれも実際にあったことを元に書いているそうです。松本勝男を通して中国に取り残されてしまった孤児たちの過酷な物語を伝えたいという作者の思いがよく伝わってきます。

4巻続けて読んだのですが、悲しい場面があまりに多く、何度も涙しました。しかし、終わり方が爽やかで、希望のもてる終わり方だったのに救われました。第二次世界大戦末期を題材にした「人間の条件」という映画を見たときも、あまりの悲惨さに嘆いたものですが、映画のほうは結局救いのない終わり方で、ぐちゃぐちゃになったものですが、この本の救いを示しながらも悲惨な歴史を忘れないという姿勢はとても好感が持てました。


The Amulet of Samarkand Jonathan Stroud 著
11月29日 読了

あらすじ: 魔術師見習いのナサニエルは、師匠に内緒で妖霊ジーニーのバーティミアスを召還するのですが、その目的は、自分を辱めたサイモン・ラブレースの鼻を明かしてやることでした。サイモンが隠し持っているサマルカンドの腕輪をバーティミアスに盗ませようというのです。しかし、サイモンはその腕輪を使ってある企みを遂行しようとしていました。ナサニエルの思いも寄らない展開となり、ナサニエルもバーティミアスも窮地に立たされることになります。

物語はナサニエルとバーティミアスの両方の視点から語られ、バーティミアスの部分には、バーティミアス自身の注釈が添えられています。例えば、エジプトのピラミッドが実際に作られたときに自分もそこにいてどうしたこうしたと言ったようなことなので、かなり笑えます。また、バーティミアスに限らず、妖霊たちの多くがギリシャ神話に出てくる怪物などに姿を変えていたりして、そのパロディ要素が楽しいです。

この物語の一番面白いところは、ナサニエルとバーティミアスの嫌味の応酬にあります。というか、バーティミアスの辛口のコメントにあります。バーティミアスはナサニエルの命令には逆らえないのですが、隙あれば隷属状態から抜け出してやろうという下心があります。しかし、自分は人間の感情など超えた妖霊であると言いながら、情にもろいところもあるバーティミアスがとても魅力的です。


Breath Tim Winton 著
11月20日 読了

あらすじ: 少年時代を田舎の町で過ごしたパイクレットは、危険なことが大好きなルーニーと川の中でどれだけ潜っていられるかという遊びで仲良くなります。それはやがて海でサーフィンをやることにつながり、そこでかつて有名サーファーだったサンドーに出会います。サンドーの手ほどきのもと、2人は急速に荒い海にもひるまぬサーファーとして一目置かれるようになるのですが、パイクレットはルーニーほど危険を恐れないわけではない自分に気が付いていました。そして、サンドーはある日ルーニーを連れてインドネシアに行ってしまったのでした。何も聞かされていなかったパイクレットは、サンドーの妻で同じように残されたイーヴァに急速に接近してゆきます。

ティム・ウィントンはブッカーズ賞にノミネートされたこともある現代オーストラリア文学を代表する作家で、このBreathは今年出版された最新作です。彼のこれまでの作品とも共通している「男らしさ」や「アウトドア」、オーストラリアのアウトバックな風景などが盛り込まれていて、オーストラリアの一面を上手に描き上げる作家だといえます。私自身はそういったオーストラリアの一面に特に興味があるわけではないのですが、今回はオーディオブックでこの小説を聞き、ひきこまれました。

今回の小説には、生と死の境目で死をすんでのところで逃れるそのスリルのようなものがリアルに描かれていました。死を何とも思わない狂気とも言える「ルーニー」(英語でキチガイという意味にもなります)と、同じようにスリルを感じながらも、ある線を越える手前で踏みとどまるパイクレット。ルーニーと一緒に危険をあざ笑おうとするサンドーに置いていかれたパイクレットは、別の意味で狂気じみた危険を孕んだイーヴァに捕らわれます。

この小説の題名となったBreathは水からあがるときに息づくそれともとれるし、生そのものともとれるのですが、要所要所で出てくる「息づかい」が効果的でした。首吊り自殺、めまいがするくらいまで息を止めて川底にいる少年たち、いびきが途中で止まってしまい呼吸も止まるけれどしばらくしてまた始まるというパイクレットのお父さん、などなど、他にも「息」に関する描写は枚挙にいとまがありませんでした。


Brisingr Christopher Paolini 著
11月14日 読了

あらすじ: 皇帝ガルバトリックスに反旗をひるがえしたヴァーデンの元で戦うドラゴンライダー・エラゴンは、ドラゴンライダーになってこの方あちこちで約束してきたことごとの始末をつけなければなりません。ローランへ約束したカトリーナ救出や、不思議な力を持つエルバの呪いを解くことなどなど、やらねばならぬことが多々あるのでした。そうするうちに2巻最後で明かされた自らの出自について新たな事実が判明するのでした。

いや、はっきり言って、2巻目読後からずっと期待してきたその期待しすぎなのか、思ったほどピンと来ませんでした。ところどころいい場面は確かにあるのですが、例えば刀を鍛えるところや、しばらく離れていたサフィラとの再会場面(これが2回ある)などなど、物語全体の流れがイマイチなのですね。文章は流れるようだし、面白い単語もたくさん出てくるんですが、話の筋というのがどうも一本通っていないような気がしてしまいました。

改めて思い返すと、2巻がローランの動に対してエラゴンの静がそれは見事にリズムを成していたように思うのですが、今回はエラゴンが(そしてローランも)あちこちで悩む。自分の判断とは裏腹にヴァーデンの規律やドワーフのしきたりなどの部分で縛られてしまっているのでした。これが最終巻となる4巻でどう収拾されるのかに興味がありますが、どうも話を広げすぎた感がなきにしもあらずです。


Spook's Battle Joseph Delaney 著
9月17日 読了

あらすじ: 長兄のジャックとその一家がペンデルの魔女達にさらわれてしまい、身代金として、母親の形見であるトランクを開ける鍵を持って来いと言われたトムは、師匠のグレゴリーとアリスと共にペンデルへ出かけるのでしたが、そこに集結していた魔女たちの勢力拡大は目を見張るものがありました。さらに、トムの母親のトランクが開けられる段になってこれまで語られなかった母親の過去が少し見えてきます。

この巻では、やはり母親がトランクの中にしまっていたものがなかなかすごかったです。あと、魔女の一族のひとつは鏡を使って遠くのものを覗き観る術を持っていて、それがなかなか効果的に使われていました。

今回の巻はハッピーな終わり方とは言い難く、暗雲垂れ込めた状態で終わるんですが、しかし、それを淡々と受け止めているトムがいいと思います。


「すっぴん魂 カッパ巻」 室井滋著
8月25日 読了

あらすじ: 女優室井滋の日常に関するエッセイ。

ちょっとおもしろい話を日常の中からひろって書いているので、軽い読み物としてチョコチョコ読むのにいいかも。妙齢の美女に惹かれて部屋に行ってみたらゴミの山だった、という話がなんだかおかしくも哀しくもあり。

最後の「サヨナラ、てんとう虫君」では、ホロリときました。同時に懐かしの「深大寺」が出てきて別の意味で印象深かったです。


「失楽園 (下)」 ミルトンジョン著 平井正穂訳
8月24日 読了

あらすじ: サタンがどうにか楽園に忍び込み、イーヴをたぶらかして禁断の実を食べさせることに成功します。それに気づいたアダムもまた実を口にし、二人とも神の掟を破ることとなってしまいます。後半は大天使によって、人類の先の様子を見せられたアダムが、罪を犯した自分たちの子孫に神の約束された未来が待っていることを感謝して楽園を去るところで終わります。

上巻に比べて、特に下巻の後半はなんだか説教臭くなってしまいました。しかし、サタンが蛇に宿ってイーヴをたぶらかす場面や、その後アダムが禁断の実を食べて、イーヴと共に相手への欲を丸出しにする場面は、結末を知っていても、とても読ませる場面でした。

最後の最後まで、「女」が「男」より劣るという姿勢を崩さず、女は男に守られるべきもの、と捉えられているのが、現代人としては、かなり不満なんですが、それは当時の主流の考え方だったのだろうとも思います。


The Day of the Triffids John Wyndham 著
8月23日 読了

あらすじ: 食肉植物のトリフィドに目を刺激されて、入院していたビルは、史上最大の天体ショーである、大量隕石落下の様子を見逃してしまう。しかし、落下の様子を見た人々は皆盲目となり、様々な理由で落下を目撃しなかったひとにぎりの人々だけが目が見えるという人類最大の危機が訪れる。同時に活発化したトリフィド。盲目の多数を助けながら新しい世界を築いていくのか、健常者だけで、世界を立て直すのか、それぞれの問題や利点を抱えながら、人々は模索jし、トリフィドと戦ってゆく。

SFの古典とも言われる「トリフィドの日」ですが、邦訳で読んだのはもう30年以上前、食肉植物がはびこるということぐらいしか覚えてなくて、今回改めて全部読んでみて、SFというよりは、社会ドラマのようで、SFだ~、と思って読むと奇抜なテクノロジーなんぞは出てこないので、ちょっと拍子抜けするかもしれません。

作品の書かれた1950年代前半のソビエト社会主義(全体主義)への警戒や、人工衛星への不安感、大戦直後のアメリカ・ヒーロー視といったような社会風潮がそのまま物語に取り込まれていて、それはそれで、当時の雰囲気がよく伝わってくると思います。

ちなみに、読了後、50年代に映画化されたトリフィドと80年代前半にドラマ化されたBBCのテレビ番組を両方見たのですが、映画のほうは、話の筋や登場人物を大幅に変更しているものの、映画として見る分にはそれなりにおもしろく、テレビのほうは、話は原作に忠実でありながら、映像作品としてはあまり魅力的ではありませんでした。


Spook's Secret Joseph Delaney 著
7月28日 読了

あらすじ: 魔使いの弟子となって初めての冬を迎えるトムは、師匠のグレゴリー氏と共に冬の家へと移動するが、冬の家の地下には、封印された魔女が住み、さらには、封印されていない人に慣れた魔女も住んでいた。そこにかつてグレゴリーの弟子だったというモーガンが絡んで、冬の怪物ゴルゴスを黒魔術で呼び出そうとする…。

さらさら読める、ちょっとおどろおどろしいけれど、怖い魔女も皆が皆悪というわけでもない。そんなこれまでと同じような設定ではありますが、今回はグレゴリー氏と、魔女のメグの不思議な関係がトムの視点から書かれているのが、なかなかおもしろかったです。

視覚的には、ゴルゴス登場の場面でのモーガンに関する描写が、映像を見ているような感じで印象的でした。


「チチンプイプイ」 宮部みゆき 室井滋共著
7月22日 読了

あらすじ: 二人の対談をまとめたもの。タクシーの話、旅の話、食べ物の話などなど、他愛もない話ですが、結構楽しく読みました。

「宮部みゆき」という名前はあちこちで目にするので、人気作家さんだというのは知っていたのですが、5年ほど前に一度日本に行ったときに一冊文庫を買って読んだことがあります。浅草の下町の人だというのは、今回のこの本で知りました。下町で育った頃の様子などがなかなかおもしろかったです。

室井滋という女優さんも、私は名前しか知らなかったんですが、これまた育ったころの話だとかお父さんとのからみみたいなのが軽く触れられていたのですが、ちょっと心に残りました。


「怒涛の厄年」 三谷幸喜著
7月20日 読了

あらすじ: 2002年だかの連載エッセイをまとめたものです。劇作家である著者の舞台や日常に関するエッセイで、軽いノリで読めるエッセイでした。

この劇作家さんのことは全然知らなかったんですが、「みんなの家」という映画の脚本を書いた人だというのが本の終わりだかに書いてあって、その映画なら去年だったか大使館主催の日本映画祭だかウィークだかで観たな、と思い出しました。映画のように本当にこの著者のお母さんはフィリピン・ダンスのバーを経営していたそうで、そういうところにびっくりしました。

私とあまり変わらない年齢の方みたいなんですが、住む世界が違うってこういうことかな~、と読みながら思いました。


「五体不満足」 乙武洋匡著
6月29日 読了

あらすじ: 先天性四肢切断という障害を持って生まれた著者が早稲田大学の学生として地域活動に関わっていき各地で公演をするようになるまでの半生を描いた自伝です。

いや、すごいヴァイタリティーだと思うし、まわりに支えられていたとは言え、「よくやるなぁ。」とびっくりする幼年・少年時代です。何にでも果敢に挑戦していく姿は、どんな人でも尊敬できますが、それがこれだけ重い障害を持った人となればなおさらです。しかし、本人は障害を障害とも思わず向かっていく。ある意味得な性格ですよね。

一番見習いたいと思ったのは、実は著者のご両親の接し方でした。特に著者の中学時代に東京から青森まで友達と旅行に行きたいという著者に向かって「早めに日程を知らせてね。」という母。何かと思えば、息子の居ぬ間に両親だけで香港旅行に行くというのだから、たまげた、 です。もし、自分の子供がそういう状況にあったら、私だったら、心配で自分も行くというようなことを言うんじゃないかと思うんです。あくまでも子供は最終的に自立させる方向で育てないといけないんですよね。


On Chesil Beach Ian McEwan 著
6月28日 読了

あらすじ: 1年近くの付き合いを経てエドワードとフローレンスは結婚しました。1960年代初頭のイギリスでは、男女関係はぎこちなく、セックスに関する知識も乏しく、結婚するまでおあずけという状況だったのです。披露宴を終えて新婚カップルの初夜のぎこちなさとそれぞれの不安をそれまでの二人の関係や二人の生い立ちなどを交えながら美しい文体で綴っています。

話の中で起こる出来事と言えば、ホテルに着いた2人の食事場面に始まって、ベッド・イン、そしてフローレンスが海岸まで飛び出して行き、翌日のエドワードの行動、それくらいのものなんですが、とにかく、それぞれのぎこちなさが流れるような文体で描かれていて、さらっと読めるけれど、後で「あれもいい表現だった。」と思わせる箇所が多くあります。

最後の部分が年を取ってきたエドワードの回想になっていて、この部分は、やっぱり作者と重なるところがあって、「男性の視点」から見た60年代の男女関係かな、とも思うんですが、作中の若いフローレンスの心情が女の自分から見ても良く書けていたと思います。


The Last Battle C.S. Lewis 著
6月21日 読了

あらすじ: ナルニアシリーズの最終巻です。いよいよナルニアにて最後の戦いが起こり、ナルニア自体が消滅してしまうのですが、その消滅を目の当たりにしたチリアン王一行がたどり着いたのは、ナルニアそっくりの場所でした。

最初の数章に登場する類人猿のShiftとロバのPuzzleの部分が、読みながらいらいらしてくるくらいShiftの嫌らしさがよく描けてます。子供たちに朗読してやったんですが、これが、もう、章を読み終わるごとに'Oh, I hate Shift!'と子供たちが叫ぶくらい我が家では、Shiftが嫌われ者になりました。

「さいごの戦い」というくらいなので、大きな戦いがあるようなイメージなんですが、実際の戦闘場面は、偽アスランが隠されていた馬小屋の前で小競り合いくらいのものでした。チリアンの腹心の部下であるセントールが別の戦闘で死んだという知らせは入ってくるものの、実際に戦闘が描写されることはなかったのでした。題名にある「戦い」は、肉体的な「戦い」というよりも、アスランを信じるか否かという精神的な戦いの部分が大いにあります。


The Silver Chair C.S. Lewis 著
5月27日 読了

あらすじ: ナルニアへ一度行ったユースチスはその後だいぶ変わったのですが、その変化に気が付いていたクラスメートのジルと2人ある日いじめっ子たちに追いかけられてナルニアへやってきます。そして、2人は泥足にがえもんという沼人と共に巨人の国までナルニアの王位継承者であるリリアンを探しに行く使命を負って旅に出ます。

前回は海に浮かぶ島々、今回は北の巨人の国への旅ですが、この巻の一番の魅力は、ユースチスとジルのお供をする泥足にがえもんだと思います。とにかく何でも悪いほう悪いほうに解釈して、そのペシミズムぶりは全くあっぱれとしか言いようがありません。しかし、にがえもんは、物事が悪い方向にしか行かないといいながら、ちゃんとやるべきことはやるし、絶望してしまうようなタイプでもないのです。

巨人の国から地下の国へ入り、緑の魔女との対決もまたおもしろいものがあります。この巻では、「戦い」と言うような戦いはなく、巨人から逃げるか、魔女の精神的誘惑に打ち勝つかというような構図になっています。さらに、年老いたカスピアンが最後に亡くなってしまうのですが、その再生をアスランと共に目の当たりにしたユースチスとジルの体験も象徴的です。この巻は出来事の少なさという意味でちょっと地味なのですが、アスランへの信頼とその見返りという点でおもしろいと思います。


The Voyage of The Dawn Treader C.S. Lewis 著
4月27日 読了

あらすじ: 従弟のユースチスの家でいやいやながら学校の休みを過ごすこととなったルーシーとエドモンドは、ある日ユースチスと共に壁にかけてあった船の絵の中に引きずり込まれ、そのままナルニア国のカスピアン王と共に行方不明になっているナルニアの7人の卿を探す旅に出ます。

ナルニア国物語シリーズの中でも、一番冒険要素が多い巻じゃないかと思います。あちこちの島でそれぞれの冒険があり、世界の終わりに来たところで、さらに大冒険がまっている。この次から次へとやってくる冒険にわくわくさせられます。かなり説教臭いところもないわけではありませんが、素直に冒険物語として読めないことはないです。

どうしようもない子供だったユースチスの成長や、船の上での生活の様子、さらに世界の終わりの美しさ、などなど、冒険以外のところでもいろいろ読ませてくれる物語です。最後の数章は、いつもこんなイメージを絵にできたらいいなぁ、と思うのでした。


「失楽園(上)」 ミルトンジョン著 平井正穂訳
4月20日 読了

あらすじ: 神に反逆したために地獄へ落とされたサタンが、神が新しく作った「楽園」に住む人間をかどわかして神に復讐しようと企んだ。地獄からやっとの思いで抜け出したサタンは楽園で何の苦もなく暮らすアダムとイーヴに嫉妬する。

フィリップ・プルマンの「ライラの冒険」シリーズに触発されて読み始めました。いや、読んでるうちに、「失楽園」ってこんなにおもしろい話だったのね~、とびっくりです。キリスト教の文学だから、もっと聖書みたいなのかと思っていましたが、どうしてどうして、ギリシャ神話などからたくさんの神や悪魔をひっぱりだしてきているのがまたすごいです。

上巻では、サタンが地獄から這い上がるところから、大天使がアダムに反逆戦争を回顧するところまでをカバーしています。プルマンを読んだ後だからかもしれないんですが、どうもサタンに肩入れしてしまいます。


「夢の守り人」 上橋菜穂子著
3月9日 読了

あらすじ: 故郷カンバルからヨゴ国に戻ってきたバルサは、魔物に身体を乗っ取られた幼馴染タンダを助けるべく奔走する。タンダの師匠トロガイ、今や皇太子となったチャグムなど、1巻で馴染みとなった登場人物たちが再登場する。「花」は人の夢を糧として成長するが、夢から帰ってこられなくなる人たちもいる。今の人生から逃げたいと思う人たちはそのまま夢から覚めないこともある…。

夢の世界のほうが現実世界より居心地が好いというのは、古今東西よくあるモチーフだが、ある意味ありふれたテーマでありながら新鮮さを保っているところがすごいと思います。「花」と呼ばれる摩訶不思議な存在は、それ自体がひとつの世界であり、人格でありながら、しかし、夢を与えてくれる人に左右される。実におもしろいものです。

この話で、タンダの師匠トロガイの過去が明らかにされますが、それは、現実逃避をしたかった タンダの姪の人生とも似たある種過酷なものでした。しかし、よく考えてみると、今の世の中でも、多くの人々がそうやって「村の掟」のようなものに一生縛られているのですから、あながち物語の中だけのこととは思えないのでした。


「闇の守り人」 上橋菜穂子著
2月9日 読了

あらすじ: 暗い過去を持つ女用心棒バルサは子供の頃に離れた故郷のカンバルを訪れる。育ての親ジグロに何度となく刺客を放って来た王が死んで時が経っていた。もう追われる身ではなくなったバルサだが、異国の地で病死したジグロのことをジグロの家族に知らせたかった。しかし、そのジグロの家族の間ではジグロの話はタブーであるだけでなく、知られては困る裏があるようだった。

前作に続いて素晴らしい視覚イメージと、魅力あふれる登場人物、さらには、政治的かけひきなどの話も加わってどんどん読ませる物語となっています。前作で登場した人物はほとんど登場せず、主人公バルサのみが再登場となっていますが、バルサの過去の清算という意味で爽やかな話となっています。

山の神登場の場面のイメージがとても素敵でした。儀礼儀式の描写が活き活きとしているのも、作者の文化人類学の背景からきているのでしょうか。また、一見「弱者」「虐げられた者たち」が実は隠れた世界を持っていたりするのも、自然に描かれていて無理なく読めます。


The Amber Spyglass Philip Pullman 著
3月14日 読了

あらすじ: 何者かに連れ去られたライラを追って「神秘の短剣」を手にパラレル・ワールドを行き来するウィル。それと同時にオックスフォードのマローン博士もまたライラを助けるべく異世界に入り込み、そこで不思議な知的生物に出遭う。アスリエル卿のAuthorityへの抵抗勢力が戦争準備を進める中、コールター夫人もまた自らの計画を実行に移す。様々な思惑が入り乱れる中、ウィルとライラは再会し、死者の国を目指す。死者の国へ行ったロジャーを助けるためだ。

His Dark Materials 3部作最終巻です。前2作よりさらに厚くなり、各章の冒頭には詩や聖書からの引用が載っています。ますますいろんな文学作品への関わりが強くなっている感があります。1,2巻よりもさらにプロットがぐちゃぐちゃになり、「どうしてこうなるの!?」への答えもへったくれもあったもんじゃありません。しかし、すごい話なのです。全く持って教会勢力がこれを禁書にしたい気持ちがわかります。

死者の国はとても印象的です。ロジャーが開放されたときの様子は特に素晴らしいものでした。私もあのように最後に解放されると素敵だなと思います。死者の国に行く前の町でダイモンならぬ「死」が人にまとわりついているのに出くわしたライラ一行はぎょっとするのですが、「自分の死がどこにいるかわからないなんて嫌じゃないか。目の届くところで何をしているかわかっているほうがずっといい。」というようなことを言う人があって、なるほど~、と妙に感心しました。


「佐賀のがばいばあちゃん」 島田洋七著
1月27日 読了

あらすじ: 戦後の復興もそろそろ終わろうという頃、8歳で貧しい広島生活からさらに貧しい佐賀のばあちゃんのところに預けられた著者。貧しいながらも明るくたくましくいきるすごいばあちゃんと著者の生活を描いた実話。

出版直後にテレビドラマ化もされて、かなり話題になった本なのだそうです。島田洋七という漫才師はおぼろげに覚えているのですが、こんな紆余曲折を経て漫才界に入ってきていた人だとは知りませんでした。こんなにたくましい生活ができる人、だいぶ少なくなっているんじゃないかと思います。

おばあちゃんが言う数々の名言が本当に笑えます。明るくたくましく生きられたらいいなぁ。


「精霊の守り人」 上橋菜穂子著
1月21日 読了

あらすじ: 30代に入った女用心棒バルサはひょんなことから新ヨゴ皇国の第二皇子チャグムを連れて刺客から逃げ回ることになる。チャグムの中には、先住民の間で語り継がれた精霊の卵が宿っていた。この世界と平行して別の世界が存在する。その異界から精霊の卵を食べるために魔物までやってくる。バルサはそれらを相手にチャグムを守ろうとする。

文化人類学者、しかもオーストラリアアボリジニが専門だという作者ですが、流石に様々な言い伝えや習慣に詳しいようで、どこか懐かしいファンタジー世界を作り出しています。アジアの国のどこかにこんな言い伝えがあってもおかしくないよね、と思わせるところがあります。終わりのほうでチャグムが見る異世界の風景がまた素晴らしく、視覚に訴える作品だと思います。

登場人物がどれも魅力ある人々で、敵役なのに悪いばかりではない皇帝付きの暗殺者たちだとか、主人公である年季の入った女ッ気のない女用心棒バルサだとか、薄っぺらじゃない人物像も魅力的です。