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2009年の『読んだ』

仕事が忙しくてなかなか読書が進みませんが、去年始めた友達との読書会も引き続き楽しんでいきたいと思います。

感想を書いたついでに内容が気に入った内容であったかどうか、また、英語の本の場合は、英語の難易度を併記してあります。内容評価は、◎=「たいへんおもしろかった」、○=「なかなかおもしろかった」、●=「まあまあおもしろかった」、△=「もうちょっとおもしろくてもよかったかもしれない」、×=「私には、この本のおもしろさはわからなかった」といった5段階評価。英語の難易度は、独断と偏見で、A=「カンタン」、B=「普通」、C=「手強い」の3段階にしてあります。ただし、これは、表現(文法)の難易度であり、単語に日常会話ではあまり使われない単語が多く出てくる場合は、+がついています。これは、表現がカンタンでも、特殊な分野(SFなど)では、あまり使われない単語や造語などが多くでてくるためです。

読んだ日題名著者出版社・年内容英語
12月31日Captain Corelli's Mandolin Louis de Bernieres 著 Minerra Paperback 1994
9月18日A Game of Thrones George R.R. Martin 著 Bantam Books 1996B+ 
7月15日The Sea John Banville 著 Picador 2005B+ 
6月10日Ptolemy's Gate Jonathan Stroud 著 Doubleday 2005B+ 
6月3日Beloved Toni Morrison 著 Vintage Classics 1987
4月21日The Recruit Robert Muchamore 著 Hodder Children's Books 2004
4月6日breaking dawn Stephenie Meyer 著 Atom 2008
3月29日eclipse Stephenie Meyer 著 Atom 2007
3月23日new moon Stephenie Meyer 著 Atom 2006
3月19日twilight Stephenie Meyer 著 Atom 2005
3月10日The Children's Bach Helen Garner 著 Penguin 1984
2月10日The Tales of Beedle the Bard J.K. Rowling 著 Children't high level group 2008A+ 
1月30日The Golem's Eye Jonathan Stroud 著 Corgi Books 2004B+ 

Captain Corelli's Mandolin Louis de Bernieres 著
12月31日 読了

あらすじ: 第二次世界大戦中のイタリア軍とドイツ軍に占領されたギリシャのケフェロニア島を舞台に、イタリア軍の大尉コレリと島の医者の一人娘ペラギアの恋物語を織り交ぜた歴史物語。敵軍の占領下にありながら、誇りとユーモアを失わない島民たちとしごく呑気なイタリア軍との絡みに微笑んだり、解放軍を名乗るギリシャのファシスト達の動きに憤ったり。戦時下の人間模様を笑いを交えて描いています。

題名に出てくる「コレリ大尉」がなかなか登場せず、やきもきさせられました。島の人々の暮らしの牧歌的な場面と、ファシズムの台頭や戦地の模様が対照的に織り交ぜられ、マクロとミクロの視点から戦争を考えることができると思います。

コレリ大尉とペラギアがひかれあって行くのは、当然の成り行きで、それ自体は違和感がなかったのですが、コレリが島を脱出してからが、どうにも信じられない展開になり、それがだいぶ残念でした。もうすこし真実味のあるものにして欲しかったなというのが正直な感想です。


A Game of Thrones George R.R. Martin 著
9月18日 読了

あらすじ: 統一国家の王Robertは、親友である北の領主Eddard Starkに王の補佐官であるKing's Handになって欲しいとわざわざ南から供を連れて訪ねてきます。Eddardは断わりきれずに承諾しますが、前任者であるアリン候は病死ということになっていますが、実は毒殺されていました。親友だったアリン候の死の真相を探るためにも都に行くことを決めたEddardでしたが、真相に迫るにつれ、自らも危険にさらされていることに気がつきます。一方失墜した前王の末裔もまた、王権奪回に向けて動き出します。

最初は登場人物が多くてなかなか関係を覚えるのが大変でしたが、とに角容赦なき権力闘争にまいりました。おもしろいです。裏の裏をかく政治のかけひきや、密かに練られる陰謀が次から次へとやってきて、息つく暇もないくらい。スターク家の子供達の視点から描かれている部分が多く、最初は王国の全体像もなかなかつかめなかったのですが、それがまた作者の意図するところなのですね。

物語の視点がスターク家を中心としているので、スターク家に肩入れしてしまうのですが、そういった主要人物たちが下半身不随になってしまったり、処刑されてしまったり。身内が敵の手中にあるのに戦を仕掛けたり。決して家族への愛情がないわけではないのですが、貴族と生まれたからには、そういう覚悟がいるということなんですね。究極の覇権争いファンタジーとでも言いますか。


The Sea John Banville 著
7月15日 読了

あらすじ: 妻を癌で亡くしたMaxは、かつて少年時代を過ごした海辺の町に長期滞在し、妻や少年時代の思い出に浸ります。とりわけ、滞在しているホテルにかつて滞在していたグレース一家の思い出は、初恋の思い出と結びついているのでした。

知らない単語があまりに多くてびっくりしました。20年以上英語圏に住んで、それなりに英語の本も読んできたつもりでしたが、この本はやたらとあまり使われない単語を使っています。語り手のMaxが美術史の本を書くような自称インテリだということが、こういった単語を選んでいる理由なんだと思うんですが、内容は、それほどおもしろいとは思いませんでした。

要するに、初老の寡の愚痴とノスタルジアの話で、どうしてこんなのがブッカー賞を取ったかと首を傾げたくなりました。はっきり言って私には、この本の面白さはわからなかった。オジサンの愚痴を延々と読むような時間はない、という気がしました。


Ptolemy's Gate Jonathan Stroud 著
6月10日 読了

あらすじ: 前2作で続けて国家の危機を救った少年魔法使いナサニエルは、17歳だというのに、既にエリート官僚として、総理大臣の右腕として活躍しています。頭脳明晰で、やり手のナサニエルは今や一番人気の魔法使いですが、誰にでも愛想良くつきあう彼には、心を許してつきあう人というのがいません。折りしもイギリスは、アメリカとの戦争で窮地に立たされているのでした。魔法使いの支配に不満を持つ一般市民があちこちで暴動を起こす中、政府の内部では、密かに反乱計画が練られており、そのどちらからもプレッシャーを受けたナサニエルは、またまたかつての窮地を救ってくれた妖霊バーティミアスを召還します。ナサニエルにこき使われすぎてエッセンスがほとんどなくなってしまったバーティミアスは、死に掛けたところをようやくナサニエルにいとまを貰うのでしたが、すぐまた再び地上に召還されてしまいました。休む間もなく召還するとは、と憤慨したバーティミアスの前に現れたのは、ナサニエルではなく、3年前に密かに逃がした抵抗勢力の一員だったキティーでした。3年間ひたすらバーティミアスを召還するために勉強してきたキティーの願いは、人間と妖霊が力を合わせて理不尽な魔法使いの支配を終わらせることだったのですが…。

バーティミアス3部作の最終巻です。この巻は、これまでの巻の集大成にふさわしく、内容の濃い話になっています。1巻目から何度も登場していたバーティミアスのかつての主人だったエジプトのプトレマイオスの話がふんだんに出てきます。バーティミアスが何故プトレマイオスを2000年たった今でも愛しく思い、その姿を好んで使うのかというのがよくわかります。キティーがバーティミアスのそういう心情を汲んで、ナサニエルとバーティミアスを協力させることに成功するあたりは、なんだかんだ悪口言いながらも、情に弱いバーティミアスが愛しくなります。

特に最後の20ページがあっと驚く展開で、読み終えた後、しばし呆然、そして涙があふれました。物心がつくかつかぬかの頃に魔法使いの弟子にさせられ、ひたすら権力を求めてきたナサニエルが、最後の最後となって心を通わせるとはどういうことかに気がつき、人間らしさを取り戻します。ナサニエルとバーティミアスの関係が、プトレマイオスとバーティミアスの関係と重なり、終わりの場面で、将来バーティミアスが地上に再びやってくることがあるとしたら、もしかしたらナサニエルの姿をとることもあるかもしれない、と思ったりするのでした。この終わりの20ページのために全シリーズ読む価値あると思います。


Beloved Toni Morrison 著
6月3日 読了

あらすじ: アメリカ南北戦争の頃に南部で奴隷だったセサーは、幼い子供達を人の手に託して奴隷解放を唱えるオハイオへと逃がします。その後身重の体を鞭打たれた日に自らも逃げ出し、子供達と再会を果たします。しかし、それもつかの間、追っ手がやってき、連れ戻されて奴隷にされるよりは自由を選ぶと、2歳にもならない長女の喉を切り裂き、奴隷として連れ戻されることはなくなりますが、殺人罪で投獄されます。出所した後は、カフェでの仕事の他は他人と交わることもなく、末の娘と、年老いた姑と、殺した長女の霊と共にひっそり暮らしていました。そこへ、昔の奴隷仲間のポールDが18年ぶりに会いにやってきます。ポールDは、長女の霊を追い払い、セサーと暮らし始めるのでしたが、そこへ、見知らぬ若い女性が転がり込みます。彼女の名前はBeloved。セサーが殺した子供の墓石に刻んだ「名前」と同じ名前の女性で、その子供が生きていたら、そのくらいの年齢になるのでした。Belovedは死んだ子供が帰ってきたのだと、セサーも末の娘も夢中になるのでしたが…。

粗筋で書いたように話が時間に沿って進んでいくわけではなく、切れ切れの出来事が何度も繰り返されるうちに話の輪郭が見えてくるという作品です。最初の80ページほどは、文体に慣れるのも大変だったし、謎の部分がたくさんあって、いったいこの話はどこに行くのだろう、と思わせるのでしたが、パート2に入るころには、すっかりこの世界の虜になっていました。

奴隷の生活の凄まじさは、これでもか、これでもか、と読者を襲うし、そういった生活をしてきたセサーやポールDの自由になってからの生活もまた決して幸せなどではない。長女を殺してしまったセサーは、ずっとその罪を背負っているし、黒人社会からさえも疎外されています。その影響で、18歳になっているというのに、学校にも行かず友達もずっといなかった末娘のデンバー。そして、ポールDは、この18年間、ひとつところに留まったことがないのでした。

ジグソーパズルをするように、少しずつ話が見えてくるころに、Belovedとセサーの独り言とも思考の流れともとれる短いセクションがあり、繰り返される You are mine あなたは私のもの という言葉が圧巻でした。誰が誰のものなのか。セサーが死んだ娘の霊の虜にされているとも、セサーが霊をあちら側に行かせてやりきらずにいるとも取れます。殺してしまうほど離したくなかった娘。そして、表現がYou are me あなたは私 に変わる頃、セサーとBelovedの物語は、アメリカの黒人奴隷の全てを象徴していることが強烈に意識されるのでした。

ノーベル文学賞受賞作家。やはり、傑作というのは、こういう物語を言うのですね。


The Recruit Robert Muchamore 著
4月21日 読了

あらすじ: お母さんがある日突然亡くなってしまい、孤児院へ送られたジェイムスは、そこで不良仲間の一員となって警察沙汰となるのですが、警察から戻って翌朝目を覚ますと、CHERUBと呼ばれる子供たちを秘密情報機関の一員として教育するスパイ学校にいるのでした。スパイ学校のテストを受け入学するジェイムズを待っていたものは…。

アクション満載のスパイ・冒険小説です。現代イギリスを舞台にMI5のサブセクションとして活躍するCHERUBの一員となったジェイムスを主人公に、子供たちのスパイ活動がかなりのリアル感を伴って描かれてます。スパイ訓練を受けたとは言え、ジェイムスはまだまだ12歳の男の子。それに見合った感情の起伏もそれらしく書かれていて、そのくらいの年齢の男の子が読んだら、共感持てる部分がいっぱいあるんだろうな、と思うのでした。

CHERUBシリーズはこの本を皮切りに現在10巻まで出版されているそうで、この1巻では、ジェイムスがCHERUBに入学する経緯、Basic Trainingと呼ばれる正式エイジェントになるための3ヶ月間の訓練、そしてジェイムスの初めてのミッションまでが描かれています。所々に社会の不合理に対する疑問なども登場し、ミッション中に潜伏するヒッピーコミューンでは、スパイをする相手の思想に接して自分のミッションに疑問を持ったりするのですが、そこは12歳の男の子。疑問は持っても、結局はCHERUBの枠の中に戻るのでした。作者が押し付けではなく、さりげなく、社会の様々な問題への疑問をジェイムスを通して12歳を中心とする子供たちに投げかけているようにも取れます。しかしそういった部分を抜きにして、単純にスパイ冒険小説として楽しめる作品でもあります。


breaking dawn Stephenie Meyer 著
4月6日 読了

あらすじ: トワイライト・サガ最終巻(今のところ)です。高校を卒業してすぐエドワードとべラは結婚します。しかし、結婚しても、まともに夫婦生活が送れるはずもないのが人間とヴァンパイアのカップルの宿命なんでした。壮絶な妊娠経験を経て生まれたエドワードとべラの子供は、人間でもヴァンパイアでもない不思議な存在となるのでした。しかも、妊娠・出産経験はべラをほとんど死に追いやることに。べラを死なせないためにヴァンパイアにしてしまうエドワードでしたが、話はそこでは終わらないのでした。

べラの妊娠生活の描写が異様にしつこいと思いました。この巻だけが、これまでの巻とは違って一部ジェイコブの視点から描かれています。ジェイコブの存在がここで大きくクローズアップされたのは、今後のシリーズを書き続けるということなのか、その辺イマイチよくわからなかったです。べラがヴァンパイアになるというのは、ある意味時間の問題だったので、こういう形でエドワードを追い詰めてべラのヴァンパイア化を図るというのはエドワードの徳を守る上では必要だったのかな、とも思います。

この巻では、お腹の中の子供を取るか、母体を取るかという究極の選択が提示されていて、お腹の中の子供を守りぬくというテーマが、私の中では、かなり無理な気がしています。この辺は作者のモルモン教徒としての道徳観から来ているのかな、と思ったりもしたんですが。べラがヴァンパイア化してからも、エドワードとべラの試練は続くよ、というわけで、後半の子供を抹殺しに来るヴァンパイアの権力組織とのかけひきは、それなりにおもしろかったです。シリーズ全体としては、最初の巻がやはり一番おもしろかったかな、と思いました。


eclipse Stephenie Meyer 著
3月29日 読了

あらすじ: べラと離れてはいられないと悟ったエドワードは、自分といることでべラが常に危険にさらされていると了解しながらも、べラの元へ戻ってきて彼女を守ることに徹します。エドワードとべラの幸せは、常にに危険と隣り合わせで、それは、結果的にはべラがヴァンパイアになることでしか解決できそうにないのでしたが、べラをヴァンパイアにすることへ抵抗があるエドワードは、それを実行に移すことができないのでした。一方、エドワードにパートナーを殺されたヴァンパイアのヴィクトリアは、エドワードのパートナーであるべラを殺すことで復讐を果たそうと、虎視眈々と機会を狙い、とうとうべラとエドワードを追い詰める作戦を実行に移します。それを知ったエドワードたちは、自分たちだけではヴィクトリアを防ぎきれないとわかっているのですが、そこへ思わぬ助っ人が現れるのでした。

一見幸せそうなべラとエドワードでしたが、べラのほうには、エドワードと比較して老いていく自分という不安を抱え(まだ18歳だと言うのに!)、エドワードは、べラを守りきれないという不安を抱えているのでした。愛し合っているのに、様々な障害がある、それはロミオとジュリエットに代表されるロマンスの王道なんでしょうね。これでもか、というくらい障害やってきます、この二人には。

相変わらずエドワードの美にため息つくべラですが、3巻ともなると、その描写にもそろそろ飽きがきてきたかな、という気もしないでもないです。この巻の特筆すべき点は、ジェイコブのあきらめの悪さかな。まだまだ三角関係を維持しえるところがいいかも。


new moon Stephenie Meyer 著
3月23日 読了

あらすじ: 紆余曲折を経てステディな関係となった人間のべラとヴァンパイアのエドワードでしたが、思わぬ事件でエドワードはべラから身を引くことを決意し、自分のことは存在しなかったものとして忘れて欲しいと言い残して忽然と姿を消してしまいます。打ちひしがれたべラは抜け殻のように日々を過ごすのでしたが、地元インディアンのジェイコブとの交流を通して少しずつ人間らしさを取り戻して行きます。しかし、エドワードが残していった穴を埋めるほどのものはなく、ジェイコブの気持ちを知りながらそれに応えることができずにいるのでした。

べラとエドワードとのロマンスが殆どない巻です。エドワードの登場は最初と最後にほぼ留まっていて、話の中心はべラとジェイコブの関係なのですが、途中でジェイコブが狼男に変身してしまうという、伝説が現実となる部分があり、この辺りからべラ・ジェイコブ・エドワードの三角関係が示唆されてきます。

べラとしては、恋の相手はエドワード一筋なのですが、肝心のエドワードがいない。そこでジェイコブに頼ってしまうわけですが、べラ自身はそれではジェイコブに悪いとわかっているわけです。エドワードが再登場してからは、話が一気に進んで、この巻では、哀れなジェイコブは不満たらたらの結末となってしまいます。


twilight Stephenie Meyer 著
3月19日 読了

あらすじ: 母の再婚で父と暮らすことに決めた高校生のべラは、ワシントン州の田舎町フォークスへやってきます。小さな高校で、生物の時間に隣に座ることになった美青年エドワードの奇妙な行動に振り回されることになります。しかし、エドワードに惹かれていくべラ。ある日べラは、別の学生の運転する車にひかれそうになったところをエドワードに助けられ、その時エドワードの人間離れしたスピードと腕力に驚愕するのでした。そして、地元インディアンの幼馴染から奇妙な伝説を聞かされ、エドワードが人間ではないという確信を持つのです。

北米のティーンエイジャーガールズを熱狂させたヴァンパイアロマンスで、その後イギリス・オーストラリアでもベストセラーとなり、去年この1作目の映画が封切られたトワイライト・サガの第一巻です。長女が昨年後半夢中になった作品で、この年でハイスクールロマンスなんか読めるか、と思っていた私もとうとう手を出してしまいました。結論・たまにはロマンス作品もいいかも。

相手がヴァンパイアということで、なかなか思うように手を繋いだりキスしたりできないもどかしさ。そういうのが、却ってロマンチックなのかも、とも思いますが、随所にある笑える部分がまたエンタテイメント性を高めているのかと思います。


The Children's Bach Helen Garner 著
3月10日 読了

あらすじ: メルボルンに住むデクスターとアテナには二人の息子があり、下の子には障害がありました。家族以外の人とは殆ど交流せずに静かに暮らすデクスターたちの元に突然転がり込んできたのが、デクスターの学生時代のガールフレンドだったエリザベスとその年の離れた妹ヴィッキーです。エリザベスは奔放な生活を送る売れない女優で、ヴィッキーは幼くして両親を亡くしエリザベスしか頼るものがありません。そんな中ヴィッキーはアテナを母のような存在とみなし、デクスターの家に住み着くようになります。エリザベスの恋人フィリップもまた、静かだったデクスターたちの生活に波紋を投げるのでした。

1970年代オーストラリアの女性解放運動の象徴的存在として人気が出たヘレン・ガーナーの代表作の一つである中編小説です。読みながら時々誰のことを言っているのかわからずに数ページ戻ったりしましたが、概ねストーリーを追っていく分には問題ない話です。心理描写が含みのある表現で、伝えたいことが何だったのか、読後に考えさせられる作品でした。

題名も何が言いたいのか、と思ってしまったのですが、結局子供がバッハの作品を習得する過程をある意味人生経験に重ねているのだと思います。バッハの作品は、音を拾っていくだけならば、大抵の子供にも弾けます。しかし、その作品を美しく演奏するのは、音が簡単であるだけに、並大抵ではありません。人生もそういうことだということなのかと思いました。たいした出来事は起こらない作品なのですが、普通の幸せって何だろう、と思わせる作品でした。


The Tales of Beedle the Bard J.K. Rowling 著
2月10日 読了

あらすじ: ハリー・ポッターシリーズの最終巻に登場する魔法界の御伽噺本をJ.K.ローリングがチャリティー用に出版したものです。5つの御伽噺からなり、そのひとつひとつにダンブルドアが注釈をつけているという形になっています。ルーン文字から現代英語に訳したのはハーマイオニー・グレインジャー。こういうちょっとした凝り方がファンにとってはおもしろいのでした。

ひとつひとつの話を独立したものとして読むと、それほどおもしろいとは思わないんですが、やはり、ハリー・ポッターファンとしては、読んでおかなくちゃということで手に取りました。5編の話は、1. The Wizard and the Hopping Pot 2. The Fountain of Fair Fortune 3. The Warlock's Hairy Heart 4. Rabbitty Rabbitty and her Cacling Stump 5. The Tale of the Three Brothers です。

中でも一番ファンにとって興味のあるのは、最後のThe Tale of the Three Brothers。これは、ハリー・ポッターシリーズの最終巻で重要な役割を担う話として登場し、最終的には、この物語に登場する3人兄弟の末っ子がハリーの祖先ということが明かされる。この物語は、ある意味どこにでもある御伽噺なのですが、ここに繋がる最終巻の話を思い出しながら読むとやはりおもしろいです。


The Golem's Eye Jonathan Stroud 著
1月30日 読了

あらすじ: 前作で国家の危機を救った少年魔法使いナサニエルは、今や若手一番の政府の役人として大きな期待をになっています。しかし、政府への抵抗勢力撲滅をまかされたナサニエルは、はかばかしい成果をあげられずにいるところに正体不明の怪物が次々と公共の建物を破壊する事件が起こります。周りが皆抵抗勢力の仕業だと言う中、それを逮捕できないナサニエルに非難の目が向けられ、ナサニエルはかつて窮地を助けてくれた妖霊バーティミアスを召還します。

バーティミアス3部作の2巻です。1巻がナサニエルとバーティミアスの視点から交互に語られていたのに対し、この巻では、さらに抵抗勢力の一人であるキティーの視点からも語られます。読み進むうちに抵抗勢力のほうに肩入れしてしまうのですが、しかし、主人公のナサニエルもまたそれなりの言い分はあるのでした。相変わらず絶妙なタイミングで辛口の悪口をたたくバーティミアスが冴えています。

ナサニエルにしろキティーにしろ、計り知れないところで誰かが何らかの目的で物事を操っている、その一部に過ぎないことが後半だんだんと浮かび上がってきます。結果的に抵抗勢力の最後の仕事となる墓暴きの場面はかなりのホラー度で、夜中に読むと駄目そうな場面でした。最終巻が楽しみなシリーズです。