3ヶ月たって

キャンべラが山火事に襲われてより3ヶ月。世間では早くも忘れられつつある災害だが、被害にあった当人たちにとっては、忘れられるものではない。ましてや、再建の兆しもない焼けた家々もまだ残っているのだ。しかし、変化もあったことはあった。黒焦げになった山に草が生え始めたし、雨が降った後は、灰の混じったほこりが舞うことも少なくなった。

毛むくじゃらの木

幹のあちこちから葉が生え始めた木。

雨が降ってしばらくして後、焼け野原だったところに草が一斉に生え、緑が戻ってきた。焼けて枯れてしまったように見えた木々も、かなりの数がまた葉をつけ始めた。おもしろいのは、オーストラリア原産の木の多くが、枝の先からではなく、幹のいたるところから新芽を出し始めたことだ。オーストラリア産の木々は、山火事にやられると、幹の表皮の下にある組織に変化が生じ、そこから新芽を出すしくみになっているそうだ。毛むくじゃらになってしまった木々を不思議な気持ちで眺める。そういえば、「トリフィドの日」なんてSF小説があったっけ。ちょっとそれを思い出させるような光景だ。何世紀にも渡って山火事と共存してきた植物の知恵なのだろう。プランテーションの松にはそんなしくみもなく、ただ枯れてしまっただけだった。

さすがに壊滅的にやられた山頂付近の木々は、ユーカリの木と言えども、新芽を出しているものはない。山すその部分がこうして徐々に回復しているのに対し、山頂付近は、山すその回復を待って、そこからの種などからまた遅れて回復していくのだろう。それにしても、枯れてしまった木々は、これから切っていくのだろうか。プランテーションでは、既に切り倒し作業が進んでいるが、自然保護地域は、殆ど手付かずのままだ。

幹から芽を出す焦げた木

生き物大移動

隣接する自然保護地域が山火事で壊滅的にやられてしまったため、我が家のあたりでは、保護地域から「避難」してきた生き物でごったがえしている。まず、オオモノでは、カンガルー。これは、山火事の前からやってきていたのだが、山火事後は、我々の地域からさらに遠くへ移ろうとする傾向にあるようだ。ただ、そうするには、大通りを横断しなければならず、これまでにかなりの数のカンガルーが車にひかれてしまった。次が鳥。山が焼けたため、餌に困った鳥が庭のあちこちをほじくり返しに来る。毎朝鳥のほじくり返した跡に頭をいためている。だいたい、冬になると、コカトゥーやガラーが毎日やってくるのだが、こんなに早くからこれだけの数が来るのは、異例のことだ。

台所の引き出しに集まった蟻

それほど目立たないが、数の上で圧倒的なのが昆虫類だ。火事から1ヶ月後くらいは、蝿がすごかった。動物の死体などがまだいくつもころがっていたからだろうが、蝿の大発生で、ドアの開け閉めもままならない日があった。ちょっとでも開けるとウワッと入ってくる。その後蚊の大発生もあった。使っていないプールにぼうふらが大発生したらしく、夕方ごみでも捨てに行こうものなら、何個所も刺されて帰ってくるというありさまだった。4月に入ってからは、蟻で、何度退治しても家の中に入ってくる。写真は、台所の引き出しに蟻がたかってしまったときのものだ。引き出しに蟻が入ってきたので、毒餌をまいたところ、次の日にいなくなるどころか、3倍に増えていたというもの。こんなことは、今までになかった。

ブルドーザーとトラック

4月に入ってようやく近所で全焼した家の撤去作業が始まった。朝7時からブルドーザーやトラックの動き出す音が近所に鳴り響く。ここ2週間で、近所の11軒の撤去作業はほぼ終わったようだ。そのうちの一軒で、ある日、取り壊されてきれいに地ならしされた家の前庭と裏庭でそれぞれ庭仕事をしている老夫婦を見かけた。家はないのに、きれいに手入れされた庭だけが残っているというのが、とても変だった。